みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

信じる者は報われる

おねえネタとしては、Rがおもしろすぎて、なかなか影の薄い感のあるNなのだが、
実際うちで頼りのなるのはやはり長子であるNだ。
でも、学校にはなかなか慣れなかった。
高学年で、自分に合った先生に担任になってもらってからというもの、
ようやく学校内で、自信を持って居られる場所を見つけられたらしい彼女。
最後の学年になっても、委員会活動など一生懸命やったりで、親としては少し安心して見守られるようになった。
 
来る卒業式の準備が、着々と進んでいる。
Nが1年生から始めたピアノは、先生のおかげで楽しく続けており、
少しは弾けることが、自信を持って居られる、一つにもなっている。
 
年明けに、卒業式での全員合唱2曲の伴奏のオーディションがある、と、N、ドキドキしていた。
彼女の学年は、ピアノ上手な子が多く、Nは何度か、全員合唱の伴奏候補に挑戦するも、全敗。
文字通り最後のチャンス!と年末から言って、ぼちぼち練習していた。
 
幼少のころからバリバリ音楽教育を受けている子たちと比べれば、
ピアノに触れている時間自体が絶対的に少ないし、場数も踏んでいないのはしょうがない。
それでも、親としては、NやRの弾くピアノは、上手下手関係なく、とても心地よく、大好きだ。力も同じらしい。
 
だから、最後はなんとか、Nの希望がかなえられればなあ、と思っていた。
 
オーディションの日取りが決まり、練習はしていたが、
結局どちらの曲に立候補するのか、3日前まで決められずに2曲を練習し続けていた。
こちらで聴いていても、迷いが感じられる両曲の仕上がり。これじゃーだめでしょう。
 
どっちにすると?
と聞くと、
お母さん、どっちがいいと思う?
という。
 
そりゃ、自分で決めなさいよ。お母さんのことやないし。
(N、めそめそめそ・・・・)
 
既に、うじうじループに入っていた。
一人一曲しかエントリーできない仕組みとのこと。
 
よく聞くと、弾きたいなと思ってる曲Aは、上手な子たちがこぞって立候補するといううわさ。
それを漏れ聞いて、びびっている。
だからと言って、もう一方の曲Bにも、自分よりも上手だと思う子が数人手を挙げているらしい。
 
つまり、どちらにも、逃げ場が無いってこと。
 
そしてさらに詳しく聞くと、合唱に加えて合奏曲が数曲あり、そちらの立候補は今のところおらず、
手を挙げれば決まるかも、とのこと。でも、その伴奏はあまり弾きたくないらしい。
 
つまり2曲からしか選ぶつもりはないが、悩んだ末、まだ悩んでいる、という状況。
 
2曲弾かせてみた。
 
お母さんは、今聞いたらBの方がよく弾けてるような気がする。でもA曲の方が曲自体はかっこいいよね。
 
うーん、そうやんね。どうしよう。Bにした方がいいかいな?
 
で、Nはどっちが弾きたいと?
 
うーん、A、やけど。みんなうまいけん、怖いと。
 
ふーん、自分で決めるしかないね。じゃ。
 
 
めそめそしてはいたが、しばらくして、
お母さん、Aにする。
と言ってきた。
うん、そんなら頑張り!みんな上手やけん、今みたいなできじゃ難しいかもよ、ダメかもしれんけど大丈夫?
うん、頑張る。
 
覚悟が決まったらしい。
 
そうは言いながら、母、心の中で、別のことを考えていた。
1曲しかエントリーできない状況の中、卒業式に弾きたい、というNの強い希望があるのなら、
確実な、候補者のいない合奏曲にエントリーした方が、かなえられるではないか。
もしくは、少しは完成度が上がっているB曲の方が、確率は高いのかも?
むやみにA曲に強行突破しても、撃破されてしまうに違いない。
落ち込むやろうなあ、残念がるやろうなあ、、、。
 
喉のところまで出かかったが、言うのはやめた。負けるなら負けてこい。
 
 
Nは覚悟が決まった後は、練習にも身が入っていた。少しいい感じになってきた。
 
ねえ、お母さん、最後に、気をつけることって何がある?
弾いた後、尋ねてきた。
 
あのねえ、お母さん、はっきり言えばかなり不利だと思う。みんな上手やもんね。
だけん、Nは、楽譜通りに弾くことと、
自分のためじゃなく「みんなのために」と思って弾くことしか、できることはないと思う。
緊張すると思うけど、できるだけ、みんなのために伴奏している曲だってことを、忘れずに弾いてみて。
 
うん、わかった!
負けてその場で泣くなよ!家で泣け。
うん、わかった。。。
 
当日の朝、6時に起きてヘッドフォンをつけて練習していたNは、ちょっとすっきりした顔で登校していった。
 
昼休みにオーディションがある、と言っていたが、今頃かなあ、と思いながら、気をもんでいた。
その日は力の定期受診だったので、私の方がNよりも帰宅が遅くなってしまった。
あ~あ、家の中が暗ーい雰囲気に違いない。
Nは、おいおい泣いているだろう、、、何て言おうかなあ。。。。。
 
玄関開けると、Rが友達を連れてきていた。
なんだかんだと言っていたが、
あ、そうだ、あのね、Nね、受かったって!合格!
 
え、ていうか、Rが言うなよ。
 
部屋に入ると、Nは、にこやかに、
あのね、受かったと!もーう、R、言わんでよー、私が最初に言いたいのに!
ぶうぶう言っていた。
 
へえ、受かったんだ。すごいね。
うん、あのね、うまい男の子も、弾くって言ってきたけん、みんな上手な人ばかりやったけど、
先生たちが別室で、誰が弾いてるかわからんようにして審査してくれて、Nに決まったって。よかったーーー。
 
緊張した?頭真っ白にならんかった?
うーん。緊張したけど、結構、大丈夫やった。みんなのことを考えながら、ってのはできんかったけど。
音間違いはせんかったと?
うん、せんかった。
すごいねー。
 
まさかの大逆転でA曲に決定したNはそれから、今までと全く違ったキラキラした音で弾いていた。
悩みが抜けましたね~。
 
 
それにしても、Nに妥協案を提案しなくてよかった。。。
いつのまにか「当たって砕けろ」な路線を、すっかり封印してしまって内回りになってる自分に反省させられた。
若いうちの苦労は買ってでもせよ、という。
親がそれを後押しせずに、なんとする。
 
信じる者は救われる、もとい、信じる者は報われる。