みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

半固形化栄養剤注入導入の経緯と経過

2011年初、ラフに開始して失敗した教訓を踏まえ、
2011年3月末から、本格的に導入を始めた「半固形化栄養剤注入」についての経過ほかの記録。
 
 
[導入の経緯]
0歳児時の小腸切除手術によって、本来の小腸の長さの1/3となった力は、
長時間かけて胃ろうより、経管栄養剤を注入して栄養をとることになった。
当初、3時間ごとに8回の注入、毎回が約2時間かかるため、
一日24時間のうち昼夜関係なく注入していない時間が数時間だ。
その間に家事や兄弟児のこと、注入以外の看護、そして休息をしなければならない。
仕事で多忙の夫はほとんど介さず、私が9割以上こなさざるを得ず。
振り返れば、倒れずによくやったなと思える日常であった。
その時点で、経管栄養剤を寒天状にして注入する手技については既知。
ただ、小児に適用されている例がまだ少ない、ということで、実際導入する考えまでは全く至らず。
 
しかし、徐々に入院や体調不良状態が減り、動きが活発になってきた3歳児くらいから、
その時点で、1日に5回、毎回2時間程度となってはいたが、注入時の悩みが増えてきた。
夜間や、目が行き届かない時間帯に、注入時の管の抜去に気付かずに、大量に漏れていたり、
胃から胃液等が、管を逆流して放出されてしまう、という問題が多発した。
 
4,5歳になり、療育施設で日中過ごすことが増え、私以外の保育士、看護師などにお願いする際、
このような問題が多発することから、注入時の約2時間を、
必ず誰か一人以上の見守りが必要になり、見守っていても、あまりの動きの激しさから、
抜去などのエピソードは、完全に断つことはできない状況になった。
 
就学前にこの問題を解決するために、半固形化栄養剤注入を担当外科医に相談した。
数年前に初めて聞いた際よりもかなりの実施症例が増えてはいるものの、
小児に適用されて定着している、とははっきりとは言えないが、
在宅介護手技として導入されていることが主のため、潜在的に増えているのではないかとの話だった。
どちらにせよ小児は、個体差があり、やってみないと何とも言えない、とのことで、
まずは、自宅で、とろみ剤にてとろみをつけた経管栄養剤にて、開始してみた。(2011.1)
 
しかし、開始した日の深夜(翌早朝)、嘔吐、下痢にて、入院。入院時は軽い脱水ショック症状だった。
 
外科医は、固形化注入と、この下痢嘔吐の因果関係は不明という判断ではあったが、
さすがに回復後すぐには半固形化注入の導入は迷った。
回復して元気になると、やっぱり、注入時間の問題は同じように起こり、再度導入を決意して、
医師からの文献(論文)を参考に、半固形化栄養剤の作り方、注入方法などを文献通りにして、
全5回の注入のうち、1回から開始した。(2011.3)
 
半固形化栄養剤は、粉寒天を用いて作るが、粉寒天によって粘度の違いが出るため、
文献写真を参考にした固さに調製しラコール寒天溶液を作り、シリンジに充てんして、手作りする。
今まで0.8kcalに調整したラコールまたはエレンタールPを一回200~250ml注入していたが、
寒天でも同じカロリーを摂取するためには、液体で注入する量の約1.5倍の量になってしまう。
 
力の胃の容量キャパシティは、2歳児の造影検査で120ml程度だったため、
成長して胃の許容量は大きくなっていることを見込んで、一回摂取量約300mlを約150mlずつ2回に分け、
1回目を注入してから1.5時間~2時間経過後に2回目を注入する、という方法をとった。
 
[半固形注入の一般的メリット]
短時間で注入できるため本人と介護者のQOL向上、
嘔吐防止、胃ろう孔からの漏れの防止、液体を注入するよりも自然体に近い、
胃壁への刺激で満腹感が得られること、便性の改善
 
[実施の注意点]
通常の注入と同様、胃の内容物が消化され、残量がない状態で注入すること。
嘔吐した場合、誤嚥に注意する。
 
[力の導入経過]
3月に1日1回からはじめたが、5,6月に入院、手術をはさんだためいったん中断。
7月に再開し、2回、3回と1週間程度のペースで回数を増やしていき、
1度、注入後すぐに嘔吐があったため、もとも液体の注入に戻して様子を見て、再開。
 
外科医の方からは、うまくいきそうなら、全回、半固形注入を目指していいのでは、と提案され、
また、医療制度的な話もからみ、7月後半から本格的に、全回導入を目標に。
8月後半に4回、9月より、全5回を半固形注入で試しているところである。
 
[力の半固形注入の利点と問題点]
まだ途中経過ではあるが、現時点では非常に満足のいく状況で、大きな問題点はないといえる。
 
まず、最も大きな目的だった、力の注入時の拘束時間を短くできた。
1日5回、各2時間、計10時間の拘束時間が、1回の注入を半固形に替えることで、約5分程度に短縮。
拘束されないため本人も自由に動くことができ精神的にも安定している。
 
もうひとつは便性が大変改善した。
今まではいわゆる下痢便状態で、少なくても2~数回だった便排泄が、1日1、2回と激減した。
排泄回数が少なくなったことで、肛門等のじょくそうなどが全くなくなった。
 
半固形物の嘔吐は一度あったが、半固形注入との因果関係は不明。
その後すぐに液体注入に戻したが、それでも2度ほど嘔吐があり、
どちらかというと液体注入の方が嘔吐しやすかったように見えた。
 
また、シリンジでの一括注入の際も、力の体の動きが激しい場合があり、
その際は、介助者がもう一人いると、注入途中の抜去などを防ぐことはできる。ただし一人でも十分可能。
 
[半固形注入にかかわる、周囲の対応]
現在、力は療育施設に通園している。
当市では肢体不自由児は年長児(5歳児=現在)の1年間は、
親の手元を離れて毎日10時から15時を園職員より療育を受ける。(=親子分離、単独通園)
給食時間の力の注入については、
力が半固形注入を導入した時期が今年3月末から、しかも、全5回のうち1回のみだったことから、
5月の単独通園開始予定時点では、
実績が乏しいとのこと、また、小児の施設での半固形化注入の事例が少ないことから、
園内で、保護者不在での半固形化注入は見合わせる旨、園から通達があり、
従来通りの経管栄養注入での受け入れとなった。
 
半固形化注入を導入したのは、
力そして、私のQOL向上ももちろんだが、
通園施設などでの、職員による見守り時間を減らし、見守り時の管抜去リスク等を減らすこと、
また、注入時の激しい動きのため注入スタンドを引き倒すなどの危険を防止する目的などもあったため、
単独通園直前の入院、手術の間、約2ヶ月休んだ後の通園を再開した際、
再度、当方の、半固形化注入の導入本格化の意思を伝え、園内での受け入れの再検討を要望した。
担当外科医からの意見書なども提出し、
保育士、園専属看護師などと手順等を確認したうえで、園での受け入れを許可された。
 
 
[現時点でのまとめ]
本格導入から五ヶ月経過(実質3ヶ月)したが、
半固形化注入の導入の結果は大変良好で、導入したことによるメリットばかりであると言っていい。
何より力の行動を制限される2時間が短縮され、保育やリハビリ、外出などの制限事項が減ったことは大きい。
私も四六時中目を配ることを強いられることがなく、注入時間の介護者ストレスが軽減された。
便性の改善、排泄の回数も減り、生活リズムも整えやすい。皮膚辱そうにも悩まされなくなった。
 
今後就学に際し、学校生活での半固形化注入を受け入れは不明、との懸念があると保育士より。
力が通うことになる予定の当市、肢体不自由児部門の特殊支援学校で、どのような対応をするかは、
現在調査中であるが、
実績を積み、それぞれが納得できる状況を作りたいと思う。