みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

ピアノコンクール・ハプニング

昨年度、おねえたちはピアノのコンクールに初挑戦した。
オールエントリーのカジュアルコンクールではあるが、大きな会場で開催され、
家が買えるほど著名な楽器で演奏でき、個々採点とコメントが審査員の先生たちにつけてもらえる本格派だ。
 
自分のこども時代は発表会レベルだったが、それでも、演奏時には頭真っ白になっていたものだ。
それがコンクールならば、きっと緊張するだろう、と思っていたが、
意外や意外に、おねえたち、
演奏前のものすごい緊張状態を演奏時にうまく集中に変えて、多分その時の最もいいパフォーマンスを見せた。
これは、きっと、保育園で培われた力だろうと思う。通った保育園に感謝感謝である。
 
なんとか、予選本選とクリアして、3月末年度末に開催される、
全国を5エリアに分けた大会までコマを進めることができた二人。
 
しかし!
力の入院が予想以上に長引いて、両親ともに、聴きに行けないことが大いに考えられる状況になった。
入院中、家のことを頼んでいたおばあちゃんは放任主義だし、
大事なコンクール2ヶ月前を、母無しの家で自由気まま?に過ごしたおねえたちは、
かろうじてコンクールの数日前に退院して帰宅した鬼母に、練習しなさい!とちょこっと言われただけで、本番。
 
まずは、上のおねえN。
前日は食事がのどを通らないほど緊張していたが、迎えた当日。
私は力が退院後の体調がまだ心配な状況だったので、ヘルパーさんに依頼する時間を少しでも短くしようと、
おねえたちだけで先に路線バスで会場付近の市中心部まで行かせ、
バス停でじいちゃんばあちゃんと待ち合わせする段取りで、進めることにした。
 
ちょっと不安はあったが、
今のうちの状況があるので、何かあった時に、と、
娘たちだけでバスで市中心部に行けるようにと練習は何度かしたことあるし、
じいちゃんばあちゃんは早めに来てバス停で待機してくれることになっていたので、
なんとかなるだろう、と思っていた。
 
でも、万が一の事故や、交通渋滞のことを考えて、
○時までバス停で待ってもばあちゃんたちに会えなければ、自力で会場まで歩いて行くように、伝えた。
何度か、歩いていったことがあるし、おねえNは、まあまあ方向感覚がある方だ。
目印の建物など、道順を教えた。
もしそれでもわからなければ、誰か大人に尋ねるようにと。
 
彼女らも不安そうではあったが、力の現況理解して、朝から二人で出かけて行った。
私は、ヘルパーさんに申し送りをして、準備してバス停に急いでいたら、携帯が鳴った。
 
N:おかーさん、おばーちゃん、おらんよ!どこにもおらんよ!もう時間過ぎとーのに!!
 
えええー、なんで?
N、相当動揺である。
 
どこにいるのか、聞くと、指定したバス停で降車しているようだ。
ついさっき、ばあちゃんから、バス到着の10分ほど前にはバス停にいる予定、とメールがあったばかり。
 
母:ばあちゃん、バス停におるはずよ。探してみて!
N:探したよー、ずっと探しよーとよ。おらんもん~。
母:そんなら、もう時間ないけん、すぐに会場に向かいなさい。場所わかる?
N:なんか、よくわからん!でも、行ってみる!誰かに聞くけん!それじゃ!
 
ぎょえー、どういうことよ。
彼女らはいったいどこにいるのだ??
携帯持たせていない彼女らは、公衆電話から私に電話してきたらしい。
それから、はやる気持ちでバスに乗りこむと、次に、ばあちゃんから電話。
 
ば:NもRもおらんよ!10分前から待っとうのに!
母:今さっきNから電話あって、ばあちゃんおらんて。
ば:おかしいねえ、ずっと遠くまで見て探しよーのに。
母:既に会場に向かわせたけん、ばあちゃんたちも急いで行ってやって!
 
電話切って、こりゃー大変なことになった。と心臓バクバクだった。
いったい、どうしてこんなことになったのだろう?
同じバス停で、なぜ会わないのだ?
受付時間、間に合うだろうか?
人さらいにでもあわないだろうか?
 
すると、携帯メール。ヘルパーさんから。
力もトラブル?。。。。。。
読むと、おむつの話だったので、ほっとしたのもつかの間、
じいちゃんから電話。
 
じ:おい、今日、Nやなくて、Rて受付で言いよるバイ。R出られん、て言いよるぞ。
母:ええええー、なんでーー。
 
じいちゃんは会場受付から電話をかけてきていた。
 
何が何だかわからんぞ。
いや、あ!そうだ、もしや。。。
 
力の入院中、日程をメールで確認していただけの私。
NとRの日程をすっかりさかさまに勘違いして覚え、皆に伝えていたのだった!!!
うそやろー、信じられん!!!!
入院でバタバタしてるとはいえ。。。信じられん。。。。。
 
でも、ということは、じいちゃんとばあちゃんとおねえたちは無事に会ったことになるな。よかった。
そんなことを思いながら、ふとバスの車窓から外を眺めると、いつもの風景と違う!
え、ここ、どこよ?
隣に座っている妙齢のご夫婦も、あせあせ、と、「間違ったんじゃないか?」とこそこそ話していた。
 
と、気づいた。
前日からバスのダイヤ改正があっていた。
そして、それに伴い、いつも乗るバスがほとんどルート変更をされていたのだった!
降車バス停の名称は同じだが、逆側からのルートで、いつも降りる側とは反対車線にあるバス停に停まった。
 
ルート変更!なんて、タイミングで!!!
市中心部なので、4車線+バス停の大きな通りである。
おねえたちと、じいちゃんばあちゃんは、大きな車路をはさんでトイメンで、
同じ時間にお互いを探していたということだ。
そりゃ、気づかんやろ・・・。
 
なるほど、そういうことで会わなかったんだ、と思いつつバス降り、ダッシュで走っていたら、また電話。
 
ば:今日はRらしいよ。もう、R、出らん、っていいよるよ。
母:順番を勘違いしとったとー。信じられん。
 
そこで、Rのお友だちで、同じコンクールに出ている子のお母さんが電話をかわった。
 
「Rちゃん、動揺して、もう出ない、って言ってます。事務局に相談して、
順番最後に回してもらうよう、お願いしていますが、どうしますか?」
 
パニくってる彼女らを見かねて、かわって交渉してくれていた。
もう会場のすぐそばまできていたので、すぐ行きます、と答えて、走った。
 
その場につくと、
いかにも、想像通りの場面だった。泣きべそかいているR。
もう絶対出らんもん、と。
 
そりゃそうやろ。。。
説得してみたが、全然無理。。。
 
お友だちのお母さんにお礼を言って、
コンクール事務局の人には、(Rには聞こえないように)最後に回してもらえるのなら助かる、とお願いした。
 
そして、一旦帰宅することにした。
順番が最後だと、今から5時間後になる。
 
ヘルパーさんは、予定よりもずいぶん早い帰宅に驚いていたが、
力は問題なく、ほとんど寝ていて大丈夫だった、ということで、安心した。
 
 
おねえたちから、朝の顛末を聞くと、予想外なハプニング続きだったのだ。
 
バスは時間通りに来て、時間通りに到着した。ただし、逆向きのバス停に。
おねえたちは、なんだかおかしい。と思いながらも、バス停名は同じだしなあ、
と、一生懸命ばあちゃんたちを探していたそうだ。
時間迫り、私に電話をかけることに気付き、会場に向かったが、
出発地点が、初めての地点なので、当然ながら、迷ったらしい。
で、近くの大人に尋ねると、最初は男性、次に女性に、と二人に聞いて、
二人とも、知らない、と答えたという。(これもホント信じられん話ではあるが)
 
時間なくあせっていたところ、Rが、ばあちゃんの携帯に電話すればいいやん、と、思いつき、
また公衆電話からおばあちゃんに電話して、まずは会うことには成功したらしい。
 
会場に向かうと、日程が違うことが判明。
で、R泣きべそ。というわけ。
 
Rは、誰ともほとんどしゃべらず無言で帰宅し、絶対に出らんもん、と、子ども部屋に引きこもってしまった。
そりゃそうやろ。もし私でも、絶対出らん、ていうもん。
 
しかし、大人のミスで、せっかくの成果を出す場を失うのは彼女に本当に申し訳ないことである。
二人きりになり、いろいろと話して、
かわいい髪形にして、気分一新で行ってみよう!という母のちゃちな提案に、結局は乗ってくれた。
全くいいやつだ。私に気を遣った部分もあったのだろうな。
 
リクエストの通り、かわいく髪形を決めてやって、少しだけ自宅のピアノで練習して再度GO。
ヘルパーさんはもういないので、ばあちゃんに留守番を頼むことになった。
力は顔色今一つだったが、私が行かなければ、Rは出ないだろう。
力頑張れ、と出かけた。
 
Rは最終順で、無事演奏終了。こんな目にあいながら、やっぱり今までと同様、本番に最もいい演奏をした。
よかったよかった、きっと、評価してくれるのでは、という期待を持ち、結果発表を聞くと、選外。
勝負は厳しいなあ、と思いつつ、納得できない気持ちも持ちつつ、
R、よかったよ、評価は気にせんでいいし。と声掛けると、やっぱり無言のR。
 
母:ごめんね。お母さんが悪かったね。ホントにごめんな。
R:いいよ、お母さんは、謝らんでいいけん。
 
割り切ろうとしていたRは、口数すくなに帰宅。
 
翌々日にNである。
今度はRの時のようにならぬよう、一緒に、交通手段を変更して、出かけた。
Nは、直接、先々日のハプニング続出の被害をこうむらなかったが、
間接的な影響は絶対にあったはずだ。
緊張を高めた日を延期され、少し集中が欠けたのだろう。
聴いている私たちにはわからない、N自身の満足感がちょっと足りなかったらしい。
 
N:よく弾けたとは思うけど、なんか、前の時より、気持ちよく弾けんかったけんくやしかった。
 
と。
母、やっぱり、Nにも申し訳ないなあと、ごめんな、と謝っていたが、同じように、
お母さん謝らんでいいし、と言われた。
 
時間の関係で、結果発表は翌日確認した。
Nは賞状がもらえることがわかった。Nはしっかり3戦3勝と戦績を残した。
選外のRは、Nをうらやましく思う気持ちもあったのだろうが、よかったね、と健気に言っていた。
 
これで終了かあ、と思っていたところ、後日、またハプニング。
 
当日、選外だったR、実は、事務局のミスで、表彰される評点だったことが判明したのだった。
事務局からは、会場で表彰しなかったことへの謝罪の書簡と、賞状を宅配便で送ってきた。
電算処理のトラブルだったらしいが、
事務局の落ち度に怒るより先に、こんな落ちがついたことに、ほっとして、うれしかった。
R、頑張った甲斐があった!
 
Rもさすがにうれしそう。判明してすぐに、父とばあちゃんに、いそいそと電話で報告していた。
 
よかったよかった。ホントによかった。
 
ピアノコンクール初挑戦は、こんなハプニング続きで幕を閉じたが、
たとえカジュアルなことであったとしても、何かに向かって一生懸命成果を出すべく努めることが増えることは、
きっと彼女らが生きる上での糧になるだろう。
ピアノもだが、
ピアノ以外の想定外のハプニングを何とか自分たちで考えてクリアしたことに象徴される。
考えて、人に助けてもらって、なんとかやれる。
何事もなく終わったから言えることでもあるが、ホント貴重なハプニングをもらったもんだ、と思った。
 
大人がこども達にしてやれるのは、見守るだけだ。環境を整えるだけだなあ。と。。。
NもRも(大きくなって力も)、今回のことを思い出して、
工夫して知恵をつかって、予想外な出来事に立ち向かっていける人になってくれればいいなあ。
 
終わりよければ、すべてよし。
 
 
って、お前が言うな!だ。大人である自分の情けなさ、と言ったら!全くもう。