みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

四十路に際して「終末のフール」

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先月アラフォー、から、ジャス・フォー(勝手に造)になった。
もともと私は誕生日などの記念日系に興味がなく、人の大事な日もすぐに忘れてしまうのだが、
対して夫は、こんなことには意外にもまめに、毎度贈り物をしてくれる。

今年の贈り物は、先日ピアノの世界的コンクールで優勝した辻井伸之氏のCD&DVDと、
夫が読んだ後の、伊坂幸太郎の「終末のフール」。

辻井君のは届いてすぐにチェックして涙したのだが、
本!
家事やおねえ達のもろもろがないから、
力の急性期以外の入院期間中位しか、読書など無理だという妻の現状を、
いまだ理解していないのだろうか?
本を読むならどっぷり浸かって読みたい私にとって、
細切れ時間にちょっとずつ読み進めるくらいなら、読まぬほうがいい位なのだ。
夫、自分が読んで感動してわざわざ電話してきた程のこの本を送ってきて、
「すぐに読んでみ!四十路に絶対いいけん!」
と、メッセージもやけに暑苦しく、ややカチンときた。

うーん、そうねえ、と言いつつ、読書モードにならないまま、数週間が過ぎようとしていた。
夫、その間、何度も「読んだ?」と尋ねるが、なかなか進まぬ私の様子にとうとう、くさってしまった。
(ちなみに私の読書スピードはかなり早い。)
いいよ、もう無理せんで。どうせ読まんっちゃろ。と、いじけた。まったく、子どもか???

ということで、努力して、這う這うの体で一月もかかって読了。



伊坂幸太郎はここ数年、原作がいくつも映画化されている、売れっ子作家。
(死神の精度、鴨とコインロッカー、重力ピエロなどなど・・・・)

唯一、WOWOWのドラマWから映画化された、
「CHiLDRENチルドレン」だけを(大森南朋目当てで)偶然知り、DVDで観たことがあった。
家裁のことを描いた映画だが、マイナーなれどもとてもおもしろい小品だった。(おすすめ)


「終末のフール」は、
隕石が落ちてきて地球が滅亡する3年前のこと。
8年前に滅亡予告されてパニックに陥った世界が、
妙に落ち着きを戻し小康状態になっている、仙台の団地の住民たちの群像ものSF。

全8話の短編集だが、それぞれが同じ団地内の住民に関係する話なので、
それぞれの話に、別の話の登場人物がほんのちょこっとずつ出てきたりする。
タイトルは、表題の「終末のフール」と同様、「△□の○ール」と、統一。
文庫本帯には、「世界が終わるその前に今日、あなたは何をしますか?」

読み終わって興奮冷めやらぬ夫が言っていたのは、2話目の「太陽のシール」のこと。

「これって、もしかして、うちのことをヒントに書いたかも?よ!(んなわけねーだろが!)
でも、だけんて、あんたがよくやる悪癖の2話目から読んだり最後から読んだりしたらいかん!
順番に必ず読むこと!」
と言う。まったく、読み方まで指定されて、さらに暑苦しいたらありゃしない。

でも、まあ、これを送ってきた夫の意をくんで順々に読んだ。
(実は2話目をちょこっとだけ最初に読んだ~。)
内容はネタばれになるので書かないが、読後、すがすがしい気分になったことは事実。

この、数年後にじわじわと滅亡に近付いていくようなSF的シチュエーションがもし来てしまった時、
はたして、自分たちはどうよ?と、本を読んで自分に問いかけた時に、
きっと、夫には、ピキーンと響いたのだろう。
でも、私は、ていうか、もうこちら側におるけど、という感覚。


力を授かってもうすぐ4年。今までこの状況をどうにか、誰の命もなくすことなくやってきた。
(正確には、多くの皆さんの力を借りてようやくやってこられた。)

力が私たちのところにやってくる前までは、
太く短く、明日死んでしまってもいいように、などと、知ったような考え方をしていたが、
今ではすっかり、そんなことをしゃあしゃあと口走っていたことすら恥ずかしい。


生きていくことは、とても大変なことだ。大変なことがとても多い。
でも、楽しいこと、うれしいこと、幸せなこともたくさんあるのは間違いない。
それは、食事も忘れるほど好きなことや、守るものがあったりすると、さらに倍だ。
私はもう、明らかに確信できる軸をもらった。
本当は今までもあったのだが、他の事に気を取られすぎていた。
気がつくことができて、本当にありがたいことだと思う。

40歳は不惑。凡人にはそんな完璧な境地にまで到達できるわけはないが、
なんとなくイメージできる気がする、確かにポールをしっかりつかんでいられれば不惑

終末が来ても、たぶん私はなんだかんだとバタバタして、歩くとそうは変わらないのに小走りで移動し、
疲労して寝不足でも、さらに何かやってやろうと、頭をめぐらすだろう。


夫は私より、ゆうに200mほどは遅れて走っている。脚力は私より十分あるはずなのに。
このペースでいけば夫、もう10年すれば私の周回遅れになるかもよ。

つまりこれが、「終末のフール」を読んでの私の一番の感想だ。