みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

⑳退院してくれてよかった

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「みんなのチカラに」連載第20回が掲載されました。
http://www.nishinippon.co.jp/medical/2007/02/post_261.php

「小腸をつないで退院までは、早い人なら4ヶ月、長い人なら4、5年ほど、と言われています。」

小腸縫合手術後に、こんな話を聞かされていたので、
覚悟を決めていはいたものの、
この生活が数年も続いたらどうなるんだろう?
と、思っていました。
でも、力はどんどん回復してくれて、
何と術後3ヶ月で点滴がはずれ、退院することができました。

手術後、落ち込んでいる私たちに、病棟の看護師長さんから、
「奇跡は絶対にあります。今まで何人も見てきました。
お父さんお母さん、前向きに頑張っていきましょう!」
と話していただいたのですが、
まさに、「奇跡的な」回復だったのかもしれません。

退院が目前に迫ってくると、
不安もどんどん大きくなるばかり。
私、できるんかな?
と、退院前夜は遅くまで眠れずにごそごそと準備していました。
明日から寝られないのに、と思いながらも。

でもいざ退院してみると、
大変でも、どうにかやれるもの。
不慣れなことも、どんどん慣れてくるし、手際もよくなる。

「案ずるより産むが易し」
とか、
「火事場の馬鹿力」
とか、
そんな言葉が頭に思い浮かんでいました。


さて、
当初、「みんなのチカラに」連載は20回の予定でしたが、
延長になり、もう少しお付き合いしていただくことになりました。
次回以降は退院した後のことについて書いています。
どうぞよろしくお願いいたします。


みんなのチカラに<20>退院してくれてよかった

 お盆を過ぎたころから力(ちから)の退院が見えてきた。

 胃ろうの管を通じての経腸栄養剤の注入量も十分になり、5カ月間、右肩に入っていた中心静脈栄養の点滴がとうとう外れた。「長期間、点滴のトラブルがないのは珍しい」と医師が驚いていた。

 ゴールが見えてくると急ピッチだった。練習の意味で、退院予定一週間前の週末、自宅外泊にトライ。当初は力と私と夫の3人で、と計画していたが夫は急に出勤になった。相変わらずだ。

 おばあちゃんに自宅に来てもらい、一泊はあっという間だった。たんの吸引や注入など、やらなければいけないことは自分でできることが分かった。これならどうにかなるかも、少し自信になった。

 退院前日。午後、予防接種を受けた。入院したばかりのころは、いろんな処置に対して嫌がったり痛がったりする様子はあまり見られなかった力。嫌がる余裕がないほどしんどかったのだろう。今では一本の注射でも体中で怒って泣いている。元気になった。

 力が寝ている間に、看護師さんが「お母さん、退院、ちょっと不安もあるでしょ?」とささやいた。図星。家に帰ると、頼れる看護師さんや医師はいない。家事やその他もろもろを1人でやりながら力のお世話だ。退院のうれしさよりも緊張と不安の方が何倍も大きかった。

 退院の日。いつも通り午前中に力を風呂に入れ、注入した。そして、何人かの看護師さんと医師たちに見送られて病院を後にした。あっけなくて、かえって気楽だった。

 思い返せばこの半年間、家族それぞれ本当にしんどかった。誰も大きな病気もせずに乗り越えられたのは、周りの皆さんのおかげと、まさに「奇跡」じゃないだろうか。

 私は力の付き添いと、お姉ちゃんたちの待つ家との往復で、心身ともに引き裂かれるようだった。輪をかけて、いろんな大人の関係が重かった。気遣いや調整がなければどんなに楽だろう、子どもたちのことだけを考えられたら、と。常に優先順位を考えながら、自分だけは絶対に体調を壊さないようにと緊張しながらの毎日。心が休まる時はほとんどなかった。

 帰宅すると、すぐに昼の注入だ。私たちも一緒にご飯を食べた。お姉ちゃんたちの昼寝の時間は力も眠り、夜の食事前、お姉ちゃんたちが歌ったりする声と一緒に一生懸命手足をばたばたさせていた力。彼女らの寝る時間には目がとろんとなり、眠ってしまった。これが本来の生活だ。

 入院生活はやっぱり不自然だった。ざわざわしながらでも家族そろってが自然な形。力にもお姉ちゃんたちにも、1番いいことに違いない。

 大変なこと、面倒くさいことは、全部大人が引き受けよう。力やお姉ちゃんたちの寝顔を見てしみじみ、力が生還してくれてよかった、うちに帰ってきてくれてよかった、と思った。

 おかえり、ちから。