みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

⑮おなかが“開通”しました!

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「みんなのチカラに」連載第15回目が掲載されました。
http://www.nishinippon.co.jp/medical/2007/01/post_236.php

年明け早々、「ウンチ」話。
狙ったわけではないのですが。

当初、元原稿ではもっと「ウンチ」を連呼していたので、
ちょっと手直ししましたが、
それでも、「ウンチ」話には違いない。
鼻についた方もいらっしゃるだろうなあ、と思いつつ、
この開通エピソードは、
ずっと暗いトンネルをくぐってきていた私たちにとって、
それはそれはうれしいものだったんです。

出ているのをみて、
バカみたいに、
「○○さーん(担当看護師しさんの名前)、○○さーん!!!
ウンチがー、ウンチがー、ウンチがー、出ましたー。」
と大声で叫んでいた私。
今考えると、超恥ずかしい。

年明け早々、「ウンチ話」。
運がつく、ってことで、ご容赦を。


みんなのチカラに<15>おなかが“開通”しました!

 「あー、もう、お母さん、惜しかったあ!」。小腸をつなぐ手術から2日後、力(ちから)の病室にいた看護師さんたちが口々に言った。聞くと、私が病室を離れていた時を狙ったかのように、たった今、おならが出たらしい。そりゃ、聞きたかったわ!

 ドラマなどで盲腸の手術後、おならが出たら「やった!」という場面があるが、力は重要な消化器官である小腸を大部分切除して、縫合手術をやったわけなので、「おならが出た」の意味はかなり大きい。後は便が出るのを待つばかり。明日以降じゃない? と医師は言っていた。

 顔色は前日より随分良い。前日夕、のどの気管から鮮血が出て、夜まで続いていたので心配したのだが、早朝、耳鼻科医にカニューレ(気管切開孔(こう)に挿入している短い管)を別の種類に交換してもらって治まった。カニューレ先端が気管内のできものに触れて出血したようだ。

 カニューレは何種類もある。曲がり具合、材質から形状まで様々。いまひとつフィットしないのでいろいろ試していたが、今回交換したものに落ち着いた。力にピッタリのものが見つかってよかった。

 夕方から付添いをしてくれるおじいちゃんが早めにやって来た。ちょうど耳鼻科医がカニューレの様子を見に病室に来てくれたところだった。耳鼻科医と話していると、力から「ぶりぶりぶり~」と大きな音が聞こえた。

 耳鼻科医と顔を見合わせた。おむつを見ると、おお! 便が出ているではないか! 新生児期によく見る緑色の普通の便だった。力は妙な顔で足を上げてもぞもぞ。

 「看護婦さーん、ウンチが~、出ました~」。大声で担当看護師さんを呼ぶと、すぐに来てくれた。「まあ、まあ! 見せて! ホント! ちーくんすごーい!」。彼女はすぐさま医師に報告し、会う人会う人に「ちょっとお、ちーくんウンチが出たよ! それも立派なウンチよ! 見て見て」とオムツ片手に自慢して回っていた。

 居合わせた耳鼻科医も拍手してくれた。おじいちゃんもうれしそう。何人もの看護師さんたちがわざわざ病室に来てくれて、「よくやったね、よかった、えらいねー」と言ってくれた。後から来た担当医も「おおーすごい、立派な便やね。ちゃんと出てるね」と喜んでくれた。

 「ウンチが出る=小腸がうまくつながった」ということ。切除したのが2カ月前。以降、排出は人工肛(こう)門(もん)から処理をしていた。今、栄養を自分の身体の中で消化吸収し、自分の肛門から出して完結している。健康な人には当たり前の仕組みだが、今更ながら、人間の身体ってうまいことできているなあ! と思った。

 いくつものヤマを越してここまできた。ウンチが出ただけでこんなにうれしくて、ありがたくて、喜んでもらえて、何て幸せなことだろう。

 出たよー、って拡声器で知らせたいくらいだったよ! 母ちゃんは。