みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

⑪死と隣り合わせを再確認

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「みんなのチカラに」連載第11回目が掲載されました。
http://www.nishinippon.co.jp/medical/2006/11/post_215.php

身体も動かない、言葉も出ない、
だんだん身体が冷たくなってくる、こんな「超」動揺状態は、
このハリーコールの事件で3度目。
目の前で起こっていることがスローモーションのような、
鮮明なのに非現実的な感じの中で、
「なんで?どうして?」
ということばかりが、ぐるぐる頭をまわっていました。

これが家だったら・・・。
後で考えると恐ろしくて震えてしまうこのアクシデントを病院で体験したことは、
本当に私たちにとっては幸運なことだったと思います。

この日から、
カニューレ固定紐の結び目チェックは、これでもか、というほど神経質になりました。
力にはちょっと我慢してもらわなければならないけど、
絶対にずれたりしないように、ややきつめに。

それまでは看護師さんが結んでくれていたのですが、
結んでもらっているのを側で見ていても、さらにその後確認しないと気がすまなくなり、
ほどなく、耳鼻科医と相談して、
紐を結ぶこと自体を、看護師さんに見守ってもらいながら私がやることになりました。
力の命綱は、私が守らねば、と。

今では固定紐交換もほとんど一人でやるのですが、
執拗な結び目チェックは、今でも当然ながら継続。


みんなのチカラに<11>死と隣り合わせを再認識

 4月半ばの金曜日、昼すぎの身体ふき。点滴やカニューレ(呼吸のため気管切開孔に挿入している短い管)が入っているため、看護師さん3人がかりだ。足を洗って、さあ手を、という時に力(ちから)はふいにゼイゼイ言いだした。看護師さんは今までと同じくのんびりペースでたんの吸引の準備。ふと力を見ると、白目をむいて、しゃっくりみたいな変な呼吸になっている。

 「なに? これ? なに?」。力、みるみる顔から身体まで紫色に。急いで吸引するが何も吸引できない。紫が真っ青に変わっていった。1人の看護師さんが力の身体を横に向けながら大声で叫んだ。

 「早く誰か先生呼んで! ハリーコールを!」

 ハリーコールとは、緊急を要す患者の急変にのみ使われる全館放送で、手が離せないスタッフ以外は指定場所へ駆け付けなければならない。

 別の看護師さんがばたばたとナースステーションに走って行き、入れ替わりに数人が入ってきた。近くにいた他科の医師が来て、酸素バッグで空気を送るが全く改善せず。

 息せき切って主治医が来た。力を見てすぐに言った。「カニューレが外れてる。挿管の準備を! 酸素も早く!」。側の看護師さんが器具をがちゃがちゃ探している。

 「ハリーコールです。外科病棟に至急…」。背後ではこんな放送が流れていた。あっという間に医師などでいっぱいになった病室で、主治医がまずはカニューレを入れ直した。顔色が戻ってきた。

 「時間何分かかった?」。年配の医師が看護師さんに聞いた。「1分もたっていません」「なら、大丈夫だな」

 「解決しました。みなさん、ありがとうございました!」。看護師さんが言うと、ささーっと潮が引くように、みんな去っていった。

 私は何も言えず、身体さえ動かなかった。何でこんな状況になったのか。看護師さん、主治医たちと検証した。カニューレが外れたことによる一時的な呼吸不全以外の原因は考えにくかった。

 なぜ私を含め看護師さん3人とも気付かなかったのか? 直前に激しく動かしたわけではない。のんびりと身体ふきをしていただけだった。

 主治医はカニューレを首に固定するひもが緩んでいたことを指摘した。何かの拍子にカニューレが外れたのでは、という結論に落ち着いた。ひもは前日、看護師さんから指導されて、力に合うように私が作ったものだった。耳鼻科医は言った。「こんなアクシデントは気管切開の方は誰でも1度は通る道なんです」

 力はこの先ずっと、死と隣り合わせってことを強く再認識させられた。

 脳障害などの身体へのダメージが心配だったが、検査結果は問題なし。安心した。

 今日のことは、力が警鐘を鳴らしてくれたに違いない。母ちゃん、気を抜くなよって。絶対に忘れないようにしなきゃ。もうこんな思いは2度とごめんだ。

【写真】呼吸不全になった日の力。この後、カニューレが外れた