みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

⑥どうしても決断できない

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「みんなのチカラに」連載第6回が掲載されました。http://www.nishinippon.co.jp/medical/2006/10/post_191.php

「気管切開」は、
既に一定期間、
気管内挿管されていて、抜管が難しい状況の場合にやることが多い手術です。

子どもが気管切開しなければならないのは、
未熟児(現在は低出生体重児と呼ぶ)で出生直後から呼吸困難だったり、気管が細かったり、
力のような小顎での舌根沈下、
呼吸をするたびに気管がぺこぺこくっつく状態になる気管軟化症など、
呼吸不全のリスクが高い場合です。

お腹の手術(胃食道逆流の治療)も、かなり抵抗があった私。
でも、吐いて、ものすごく苦しそうな力の顔を何度も見ていたたまれなかったので、
やらざるを得ないな、という気持ちになっていました。

呼吸困難については、
顔色が悪い状態が、寝ている時だけだったので、
呼吸確保の重要度はわかってはいても、
気管切開の話を聞けば聞くほど、
「やりたくない」
の気持ちが強くなるばかり。

手術の話が出ていた時期は、
もう何もかもほっぽりだして、本当にどっかに逃げ出したかった。
毎日どよーんと、暗くなって、
かなり努力しないと持ち上がれない状態に陥っていました。

また、気管切開のメリットをとてもよくわかっていて、
気管切開に対する抵抗がない耳鼻科医や、看護師さん達からは、
「やった方がいいのに、」
という雰囲気をバリバリ感じていて、
さらに私のどんよりに拍車をかけていました。

でも、やっぱり気管切開を決断するということは、
私にとってかなり高い高いハードルでした。

挿管されることがなかったら、
私は、多分あのまま、
切開はしないでおこう、という結論を出していたはず。
ちなみに、夫は「した方がいいだろう」派で、対立していました。

確かに、気管切開の状況に慣れてしまうと全く耳鼻科医や看護師さんの言う通り。
ピンク色の唇で血色いい力を見ると、
やっぱこれが正解だった、と。
それに、何度か麻酔を必要とする手術を経た今になって考えると、
切開していなかったらどうなっていたか、
と考えると恐ろしい。

やっぱり力が導いてくれたんだろうな。


みんなのチカラに<6>どうしても決断できない

 気管内挿管騒ぎの少し前のことだ。胃や食道の逆流症が重いことが分かった。外科医から話を聞いて、手術した方がベターなら、と気持ちが固まってきたところだった。

 主治医から「逆流症治療ももちろんだが呼吸確保の方が重要度は高い」と言われた。確かに緊急入院以降、睡眠時の呼吸状態が改善したとは言い難い。熟睡すると何度も酸素飽和度を下げてしまう。耳鼻科医も何度も(酸素飽和度を)落とすようだと気管切開しなければならないだろう、という見解だった。

 気管内挿管は口や鼻から気管支の直前まで管を入れて気道を一時的に確保する。気管切開はのどに穴を開け、鼻や口を経由せずに直接気管から呼吸できるようにする。穴にはカニューレという短い管を常時挿入し、たんなどで詰まらないようにケアする。何かの拍子でカニューレが外れると命の危険にさらされる。のどに穴を開けるので声が出なくなる。

 力がトリーチャーコリンズ症候群ならば、大人になってもあごは小さいままでほとんど発達しない。子どもの時には舌根沈下で呼吸困難になる可能性が高く、気管切開せざるを得ないケースが多い、と耳鼻科医。でも、成長して気管が太くなってくれば穴を閉じて、口と鼻から呼吸ができる可能性は高いのでは、と話してくれた。

 呼吸確保という点では一番いい方法なのだろうが、切開後の四六時中のケアや事故を考えると、「できればやりたくない」だ。また、力は現時点で両耳が聞こえない。加えて、気管切開で話せないようになると、当分、保育園はもとより、幼稚園の通園も制限されるだろう。

 一日中、呼吸困難状態なら選択肢がないのかもしれない。でも、力はほとんどの時間、自発呼吸ができている。睡眠中の何度かの無呼吸状態が問題なんだ。

 「気管切開することが、正解なのは分かっている。でも、自分が見ている大部分の時間を正常に呼吸できている力の顔を見ると、気管切開お願いします、とは言えない。感情で決めるべきではないと分かっていても、感情抜きに力の将来にかかることを決めることはできない。親だから。少しでも可能性があるのなら、力が本来持っている身体の機能を使う道をあきらめたくない」と、率直な気持ちを主治医に話した。

 「自分もできればやりたくないが、ここでクリアしても、ある時期にやはり必要なのかもしれないと思っている。でも、今、納得がいかないのであれば、ご両親の意思を尊重した治療をするつもりだ」と、主治医は受けてくれた。

 力のこれからの人生にとって最善の道は? 最良の選択は? 短時間で決めるにはハードすぎる。どうしても気管切開の決断ができなかった。このまま帰らせて、と医師に頼んでいた。そんな時、挿管騒ぎがあったんだ。

 一気に答えが出た。力が身体を張って導いてくれたか?

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【写真説明】力のベッド。気管切開すべきか否かは、なかなか決断できなかった