みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

⑯階段一歩ずつ順調な毎日

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「みんなのチカラに」連載第16回が掲載されました。
http://www.nishinippon.co.jp/medical/2007/01/post_243.php

力が9ヶ月を迎えた頃、ちょうど梅雨時くらいからは、
顔が青くなるようなトラブルもアクシデントは全くなく、
逆に、
何か、ドッキリや、どんでん返しがあるんじゃないかと、
毎日毎日ひやひやして過ごしていたことを思い出します。

力の順調な回復ぶりは、
皆さんに驚かれるほどで、
本当にありがたいことでした。

さて、
力のことで、最も助かったことは、
「皮膚」の強さ。

テープまけや、床ずれ、ストーマでのただれなどの皮膚のトラブルは、
長期入院、しかも、寝たきり状態の患者にとっては、
本当に頭を抱える問題です。

力は、おしゃぶりくわえることで落ち着くけれど、
自力でずっとくわえ続けることはできずに、
落ちないように顔にテープでとめていました。
よだれでだらだらになって、
何度もテープを張り替える状態でしたが、
どうってことない様子。

同様に、
たくさんの手術傷にあてるガーゼをとめるための紙バンや、
中心静脈点滴を固定する為の、
大面積のテープにも、
ほとんどまけることもなく、
また、一時ストーマの時期も、
看護師さんの丁寧なケアのお陰もあって、
トラブルらしいことは皆無でした。

看護師さんに、
「ちーくん、ホント、これだけでも親孝行よ。」
と、何度も言われていた力。

いやいや、親孝行は、
もう既に、数え切れないほどたくさんしてくれたよ、力くん。


みんなのチカラに<16>階段一歩ずつ順調な毎日

 便が出てから約二週間。力(ちから)は生後9カ月目を病室で迎えた。ある朝、「OK出ましたよ!」といううれしい知らせが届いた。

 もう3カ月も湯船につかってない力。「垢(あか)で力太郎をこしらえられるかもよ」と冗談交じりに話し、看護師さんたちと楽しみにしていた風呂解禁日がついに来た。

 人工肛門(こうもん)はなくなっても、左肩に中心静脈栄養の点滴、のどに気管切開と、二つの命綱がある。風呂に入れるのも大仕事だ。ベテラン看護師さんに入れてもらった力は本当に気持ち良さそう。手術後初の笑顔を見せてくれた。

 点滴から必要な栄養は取っているが、少しずつ胃ろうの管を通じて経腸栄養剤を注入することになった。注入は1日3時間ごとに計8回。乳児の一般的な授乳間隔とほぼ同じで、異なるのは1回に1時間から1時間半かけること。ほとんど1日中注入してるようなものだ。

 力の当面のゴールは点滴が外れ、注入だけで体重が増えるようになることだが、注入量を増やせばいいってもんじゃない。一定量をためて消化する胃と違い、小腸では栄養分が腸管をめぐりながら少しずつ消化吸収されていく。

 手術で小腸が3分の1に短くなってしまった力は少ない量から徐々に、時間をかけて注入していかないと、小腸が対応できずに、下痢をしてしまう。一度下痢をすると、また注入量を減らしてやり直しだ。担当医は念には念を入れて経過を見ながら慎重に進めてくれていた。長丁場になると、覚悟を決めていた。

 しかし、力は医師たちの予想を良い方に裏切り、軽い下痢はあっても大崩れはしなかった。注入量を減らされることは一度もなく、約1週間で五CCという微増ながら階段を上ってくれている。生き残った小腸は「スーパー小腸」だったのではないだろうか。

 そこで、気管切開ケアや注入などを、徐々に私がやることになった。注入は以前もしていたので、習得すべきはたんの吸引やカニューレ(気管切開孔(こう)に挿入している短い管)の紐(ひも)交換など。看護師さんは「すぐに私たちより上手になりますよ」と教えてくれたが、吸引は難しかった。

 カニューレの紐の交換にいたっては「外れると大変なことになる」という恐怖感から、ものすごく緊張し、交換後はいつも全身汗だく。見ているのとやるのじゃ全然違う。本当に慣れるんだろうか? 慣れなきゃな。力が家に帰れば私一人なんだから。

 夫も吸引を習得した後、耳鼻科医の提案でおじいちゃん、おばあちゃんも指導を受けた。私たちの負担減や急病、緊急時のリスク分散のためだ。おじいちゃん、おばあちゃんは「よく見えん」「手が震える」とか言いながらも快く覚えてくれた。

 こんな順調な毎日は、逆にどきどきして怖いほど。確実に力は前に進んでいる。大人も頑張らにゃ。少しずつでもゴールに近づくように。