みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

⑭お金がかかるのは何で?

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「みんなのチカラに」連載第14回が掲載されました。
http://www.nishinippon.co.jp/medical/2006/12/post_232.php

お金の話は、
大事な子どものことなのに、そんな金、金言いなさんな、
という雰囲気を感じることは、多いです。
自分が決めて産んだんだから、ぜいたくいいなさんな、とも。
そりゃそうですけど。
実際お金はたんとかかります。

出産一時金が5万円加算されたり、
児童手当が増えたりするのは、
とてもありがたいことだけど、
言ってみれば、やっぱり一時的なものでしかない。

退職した職場で、
妊娠して産休と育休を取得したいことを申し出ると、
「いやあ、そりゃ、どんどん産んでもらわんとね。
私らの年金が、もらえんくなるもんなあ。」
と言われて、本当に悲しくなりました。

社会全体の意識が変わらないと、
どうしようもないよなあ。


みんなのチカラに<14>お金がかかるのは何で?

 力(ちから)は生後すぐ入院し、5日後に転院した。その際の請求金額は3割負担で58万円。度肝を抜かれた。出産費用もすぐに必要だ。とりあえず工面しなければならない。どうしようと思っていたが、乳幼児医療証がぎりぎりで間に合い、力の入院分は保険医療対象で負担なし。セーフだ。

 会社員当時、給与から天引きされる保険料の高さにへきえきしていたが、今回ばかりは社会保険制度に感謝した。力の入院や手術については、公的保険のおかげで大きな手出しはなく、今に至る。

 でも、長期入院し多くの診療科にかかる力。医療福祉制度の決めごとに疑問を持ち、もろもろの出費が予想以上にかさんだことに、頭を悩まされたことは多かった。

 例えば、力は小腸の3分の2を切除した後、つなげる状態になるまで、切り口を体の外に出して固定する一時的な人工肛門(こうもん)をつくった。ビニール製のパウチをかぶせ、排せつ物で人工肛門周辺の皮膚がただれるのを防ぐため、専用パウダーでケアをしなければならない。これら必需品と思われる物品が保険対象外なのだ。何で?

 気管切開については、退院してからが問題。絶対に必要で、一般家庭にあるわけない代物の吸引機は自費購入。命にかかわる最低限の機器じゃないのか?

 力に直接関係ないことでは交通費。病院と自宅の往復、お姉ちゃんたちを預けるための送迎などで、

車を使うことがかなり増えた。折しも原油高でガソリン代高騰。日々上がるガソリンスタンドの金額表示がうらめしかった。

 泊まりの付き添いとなると、交通費は要らないが、ベッド、寝具の賃貸料が毎日加算される。病院内での自分の食事代以外は節約できない。

 痛かったのは、私が仕事を辞めなければならなかったことだ。ばりばり稼いでいたわけではないが、それでも年間100万円減。将来計画は大幅変更を余儀なくされた。

 あるお母さん。病気の子どもを抱え、働くことも制限せざるを得ないのに保障が充足しているとは言いがたいこの現実に憤っていた。同感だ。

 医療の場で保険対象とすべき必需品とそうでないものとの線引きは、確かに難しそうだ。医療機器や備品がすごい早さで進化するのに、制度がついていけなくなるのも理解できる。でも、自分が経験したいくつもの「何で?」からも、医療福祉政策がつくられる場と実際の現場は、果てしなく遠い気がする。

 力が健康に生まれていたとしても、育児には予想外の出費があっただろう。育児中の母は、あたかも裏方だといわんばかりの社会的差別や不利益も。それも覚悟して子を産み育てることを選択し、ありがたいことに子を授かった。どんな状況だってしっかり育てるつもりだ。

 それにしても、少子化だの、このままじゃ年金制度が破たんだとの理由で「産めよ増やせよ」だ。虫がよすぎやしないか? 言うはやすしだ。