みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

⑩君のペースで、君の道を

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「みんなのチカラに」連載第10回が掲載されました。
http://www.nishinippon.co.jp/medical/2006/11/post_211.php

連続3度の手術後、
これから1年ほどは、点滴が外れる見込みを判断する為の経過観察、と聞いて、
頭がくらくらしました。

力は、腸を2/3切除しましたが、
大人なら2/3も切ると助からないそうです。
赤ちゃんだから、どうにか挽回できる(=点滴が外れる)可能性がある。
でも、回復までには数ヶ月から4、5年と、
患者によって差がある、と聞かされました。

5年!?
この入院状態が5年も続くなんて!
手術が終わっての安堵感以上に、
これからの長い道のりを考えると、
とても複雑で、不安な気持ちでいっぱいでした。

そんな中で、医師の異動話。
聞いた時、なんじゃそりゃあ?と、
夫ともども思いました。
組織だから、異動なんて珍しいことではないとわかってはいるけれど。
手術直後だったもんなあ。

でも、後任の担当医には、本当によくしていただきました。
生まれた時からずっとお世話になっている主治医もですが、
力のような患者にとって、
「めぐりあわせ」は、
命を左右する重要な要素だと思います。


みんなのチカラに<10>君のペースで、君の道を

 緊急手術の翌日、面会に行くと力(ちから)は血色が良く安定していた。肝・腎機能も異常なし。術後3日目、命の危険はほとんどなくなったと医師より。大きなヤマを越えた! 喜んでいたら、明日また手術をする、と。ええー?

 力は緊急手術で小腸を大部分切除されたが、壊死(えし)したとは言い切れずに残した部分があり、数日後に再度、試験開腹する可能性があると言われていた。その手術だ。残しておいた小腸が怪しいらしい。予定の手術とはいえ、8日間で3回も手術を受ける羽目になろうとは。

 昼前に手術場に搬入、午後4時すぎに執刀医が出てきた。残した小腸はだめだった。悪いことに、その小腸が破れて内容物が流出し腹膜炎の可能性大とのこと。多臓器不全、命の危険の恐れがある、と。まただ。やっと大きなヤマを越したと思ったのに。

 手術翌日は上の子の卒園式だった。力は集中治療室。何かあればすぐに携帯に連絡が入ることになっていた。鳴りませんように。祈りながら式に出席し、終了後、面会へ。

 力、ぐったりとして目を閉じていたが、呼吸、血圧、心拍数などは安定、血液検査の値も手術後の炎症の範囲だろうとのこと。次の日には力、目を覚ましておしゃぶりを一生懸命吸っていた。顔色も良く、循環の重要なサインであるおしっこも出始めていた。

 担当医に見通しを聞いた。予定では約1カ月後に小腸をつなぐ手術をする。それまでは点滴だけで栄養を取る。つないだ小腸の消化機能の回復を便の状態で判断しながら、経腸栄養剤を少しずつ注入して点滴量を減らす。点滴がなくなり、経腸栄養剤のみの栄養供給で体重が増えてくれば退院のめどが付く。

 点滴を付けたまま退院し、生活できるかを尋ねた。感染リスクがあるため、積極的には勧めないとのこと。点滴を外せるか否かを判断するための経過観察は1年程度。つまり、力の入院生活は約1年は続くかもってことだ。

 術後4日目。膿(うみ)が出て心配されていたおなかの手術傷からMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が検出された。院内感染でよく知られている菌だ。抵抗力が弱っているところに、腹膜炎が影響して増殖したらしい。こうなると縫合した糸を解いてしまい、患部を開きっ放しにして菌の減少を待つので、治癒まで時間がかかってしまう。

 少々のことでは驚かない私が見ても患部はかなりヘビーな状態。こんな目に遭わせて申し訳ないと思った。

 そんなとき、唐突に担当医の異動の話を聞かされた。定期異動だ。診てくれていた医師が代わる、そんな社会の都合は大きな傷を負った小さな力と私たちにとっては、はあ、と言うしかない。まったく、はあ、としか。

 君は君のペースで、君の道を行くしかない。千里の道も一歩から。父ちゃん母ちゃんはずっと一緒だから大丈夫だよ。まずこの山越えて、少しずつ前へ進もう。力。