みんなのチカラに~ぼくが力になれること

産まれてすぐに救急搬送されたチカラは、 5万人に1人とされるトリーチャーコリンズ症候群と診断された。 箇条書きでも1枚に収まらないほどの手術や入院を繰り返した2005年からの10年。 これからどんなことが待ち受けているのか。 もう、チカラも家族もどんとこいの力が備わりつつある。はず。

⑤本当に死ぬかと思ったよ

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「みんなのチカラに」連載第5回目が掲載されました。
http://www.nishinippon.co.jp/medical/2006/10/post_186.php

「挿管」という言葉。
ドラマ「ER」などの医療モノで聞いたことはあっても、
具体的にどういうことで、どんなものだとは、
私はこの時点まで、ほとんどわかっていませんでした。
漢字で書くと「送管」と思っていたくらいです。
多分、ほとんどの方が同じようなレベルだと思います。

挿管とは、「気管内挿管」のことを言い、
呼吸困難など、呼吸状態が悪い状態になった際、
気道を確保する為に、気管内に管を挿入することです。
気管内に管が挿入されていることにより、
酸素を投入したり、
自発呼吸が難しい方に対して、人工呼吸器を管につないで、
呼吸を助けてあげることができます。
デメリットとしては、
一度挿管してしまうと、
いざ管を抜こうとした時に、
挿管している状態が楽な為、
自発呼吸することができなくなってしまうことが多々あること。
また、挿管が長くなると、
声帯を傷つけるなどの、二次的弊害が出てくること、などがあげられます。

つまり、
「挿管する」
ということは、
ひとつのターニングポイント、になるということです。


さて、この日のことは、
私が実際目にした、最初の、危ない状態でした。

尋常でない切羽詰った時だというのに、
私は、それでも周りを気にして、
相対して、夫は、周りが全く目に入っていないという状態。
夫の行動の方が、
親として、当たり前なのかもしれなかったなあ、
と、今になってみると思うところもあります。

ブログでは、
「シヌカトオモッタ」
http://blogs.yahoo.co.jp/hanatoharu/folder/956031.html?fid=956031&m=lc&sv=%A5%B7%A5%CC%A5%AB%A5%C8%A5%AA%A5%E2%A5%C3%A5%BF&sk=0
という記事で書いている内容を、
1/4位に凝縮したこの5回目の連載記事になりました。
この日の私達のテンパッた状態を上手く伝えられたかというと、
どうだろうか、と思っています。

字数制限あっても、
同じように臨場感を伝えられるのがプロ、
作家や記者の方なんだろうなあ、
と、素人な度量を悔しく思った、今回でした。

よければ、ブログ記事と比較して下さい!


みんなのチカラに<5>本当に死ぬかと思ったよ

 3月初めの週末、付き添った夫も、次のおばあちゃんもそろって力(ちから)の調子が悪いと伝えてきた。

 私が交代したのが土曜の午後3時。たん取りをするけどうまく吸引できない。何でだ? 眠ると呼吸の数回に1回は無呼吸だ。大丈夫なのか? 顔色悪いぞ。

 週末で医師は朝の回診後に帰宅している。看護師さんに相談すると当直医を呼んでくれた。でも、よく分からず。

 「絶対に変だ」。主治医に連絡を取ってもらうよう頼んだ。最近、力をよく見てくれている看護師さんが担当だ。すぐに良くない状態を把握してくれた。

 力は目に見えて悪くなりだした。ズコズコ言ってふいに気を失ったように目を閉じた。呼吸しているようだが、3回に1回ぐらいしか息をしてない。酸素飽和度も下がっている。普段ならゆすったりすれば戻るが、効果なし。

 「力っ、息して! 何しようと。頑張って!」。力の身体をぶんぶん揺らして叫んでいた。テレビドラマでこんな光景よくある。うそっぽいと思ってたけど。ホントだ。

 看護師さんが何人も来た。「麻酔科を」「先生まだ?」。酸素を投入されても、ほとんど改善せず呼吸が止まる時間が増えてきた。顔は土色だ。

 病棟の担当医が戻ってきた。鼻から挿入した管で炎症を引き起こしているのではないかとひとまず抜いた。

 連絡した夫が血相を変えて飛び込んで来るなり医師に食ってかかった。「何かミスがあったんじゃないのか? 大丈夫なのか?」。相当取り乱してる。いやな感じだ。

 何とか保っているだけの状態が続く。夫が私の横で聞こえよがしにぐだぐだ言い始めた。「これ危篤やろ。こんなに悠長でいいと? (気管内)挿管してもらわんと…」。もう頭にきた。「どっか行っとって!」。夫は目を血走らせ、無言でどこぞへ消えた。

 落ち着いた時に、看護師さんが私の側にやってきて、お父さんは? と聞いた。「病院内にいると思いますが」。「お父さんに言わせていいのよ。何でも(私たちに)聞いて言ってもらっていいのよ」

 そうよね。彼も思いの丈をぶつけている。親として。

 主治医が私服のまま駆け付けた。夫に電話で知らせると戻って来た。主治医は力を診て言った。「挿管だ。お父さん、お母さんいいですか?」

 気管内挿管となった。私たちは待合スペースで待つ。終わらない。ずいぶんたって、看護師さんが顔を出した。「お父さん、お母さん、入りました。もう少し待ってね」

 よかった。

 人工呼吸器が作動している。安らかに寝息を立てている力。病室は力と夫と私だけになった。力は軽い麻酔で深夜まで眠っているらしい。

 「よかった。おれは来てすぐこれやばい、と思ったけど」。「私も本当に死ぬかと思ったよ」

 こんな近くで生死の境を見せられた。連れて行かれんで、本当に、良かった。

    ×    ×

【写真説明】気管内挿管して安らかに寝息をたてている力