「みんなのチカラに」連載第7回目が掲載されました。
http://www.nishinippon.co.jp/medical/2006/10/post_196.php
飲んだら吐いてしまう、いわゆる逆流症を治療する為のお腹の手術と、
息をする為の、気管切開手術。
二つを一緒にやることになるまでは、
いろんな逡巡を経てのこと。
傷のない力の身体も今日までか、
と、しみじみと、写真を撮ったことを覚えています。
夫と待合室で数時間待ちましたが、
気を抜くと二人で暗ーくなってしまうので、
日経トレンドを持ち込み読んだり、
携帯でニュースチェックしたり、
まさに逃避的な時間でした。
私方のじいさんばあさんが、
WBC韓国戦が終わってから、しばらくしてやってきました。
「いやあ、悔しかったねえ。」
で始まり、それからは4人で、
力には全く関係ない話で盛り上がり、
気がつけば、数時間経っていました。
手術場から戻ってきた力をみて、
「いやあ、よかったよかった、それじゃ!」
と帰っていった彼ら。
気を遣ってくれたのか、それとも天然なのか、
まあ、どっちにせよ、彼らのお陰で、かなり気が紛れたのは確か。
手術当日の朝は雨が降っていたのですが、帰宅時は雨は止んでおり、
「雨上がる、やね!」と二人でほっとして帰っていったのですが。。。
夫の手術前日の夜のイメージBGMは、
「嵐が来る:Dreams Come True」だったと、聞いて、
なんそれ、ホントに緊張しとんのかね、とか話していたのですが、
これはまさにこれからの暗示だったのかも、と、
今になって思い返しています。
ちなみに、私の前夜の緊張BGMは、
「another mind/truth and lies:上原ひろみ」
これもまた今聴くと、かなり暗示的。
みんなのチカラに<7>生まれて半年、初の手術
気管内挿管されてから2週間後、二つの手術をいっぺんにやることになった。
一つは胃食道逆流症の治療手術。食道と胃の境目を絞って逆流しないようにし、胃と十二指腸との境目を拡幅して下に流れやすくする。力(ちから)は口から飲めないので、胃に直接栄養チューブを入れるための穴を開ける。もう一つは、気管から直接呼吸を確保するため、のどに穴を開ける気管切開手術だ。
当日はお昼すぎに手術場に入る予定。午前中、看護師さんが次々に病室をのぞいては声をかけてくれた。手術後は別病棟に移動するからだ。
力は今までに見たことがないほど、前日から長時間連続で眠っている。手術が迫っていることを分かって、体力を温存するかのように。
手術跡が残るので、この身体は今日限り。身体をふいて、全身写真を撮った。空手着のような手術着に着替え、足にマジックで名前を大きく書いて準備完了。すると、午前中だけ仕事をした夫が来た。あっという間に予定時間になり、力は連れて行かれた。やはり眠ったままだった。
待合室で待機。約4時間の予定だ。夫と二人でくだらん話をしたり、ワールド・ベースボール・クラシックの対韓国戦をチェックしたりして、現実逃避っぽく過ごした。
手術前に「終わり次第、概要を話す」と外科医に言われていたが、予定時間をすぎてもなかなか姿を現してくれない。ドキドキし始めていたころ、ようやく来てくれた。
「開腹すると、胃と肝臓と横隔膜が癒着しており、そこをはぐ作業が予定外だった以外は問題なくうまくやれた。術後に不具合が生じる可能性はあるが、数日間しっかり観察して対処する」とのこと。
一つクリアだ。もう一息! それから約1時間後、看護師さんが手術終了を告げた。
集中治療室(ICU)に入る直前、顔が見られるらしい。しばらくして大名行列のようにぞろぞろとやってきた。力は大きなベッドにちょこんと寝ている。とても血色がいい。こんな顔色初めてかも。
後半執刀した耳鼻科医の説明を受けた。「気管が思ったより細く、気管切開の選択は正解だったと思う」とのことだった。
今晩はICUで観察だ。看護師さんに緊急連絡先を伝えて、外科担当医に翌日午後の面談予約を取り、午後6時半には帰れる状態になった。もっと長くかかると思っていた。ほっと力が抜けた。
上の子どもたちを保育園に迎えに行く前に、軽く食事をした。夫は少し飲んだ。夫と二人で食事をするのはいつ以来だろう。うまかった。
園に到着すると、いつもはべそをかいている真ん中のお姉ちゃんが満面の笑みで迎えてくれた。父母がそろう夜は1カ月ぶり。みんなでお風呂に入って大騒ぎした。
この日は、力が生まれてちょうど半年。力の新しい始まりだと思っていた。これが「嵐」の始まりだったとは。
× ×
【写真説明】付き添いの人の控室のモニターに映った手術直後の力