みんなのチカラに~

生後すぐにトリーチャーコリンズ症候群と診断されたチカラ 10回以上の手術と40回以上の入退院を経て成人し生活介護施設に元気に通所中 気管切開と夜間の人工呼吸器 食事は胃ろうから 小さかった末っ子は今では家族の大きな拠りどころです

ハリーコール

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この2日間ブログ更新できなかったのは、またかよ!のエピソードがあったからだ。
ホントに、力は、安定したとしても、生死の境目にいる。

ICUから病棟へ上がってから、力は、ありがたいことにブログネタもあまりなく、
ゆるやかな右肩上がりの毎日を過ごしていた。変化があっても、問題ないレベル。
今週明けから夫が激務になり、
又、母も、お姉ちゃんの入学式やら何やらで、
付き添いもなんだかばたばたと交代したりで、
これじゃなあ、と思っていたところ。

週末前日の金曜日。
朝、母が到着する30分前に覚醒し、待ってくれていたかのような力。
と思っていたら、またすぐに眠ってしまった。
処置にも少し目を開けるくらいで、ぐっすり。

その日は担当看護師さんが2人ついてくれていた。
一人は異動してきたばかりと見られる、この病棟では新人さん。
後で聞いたら、別の部署ではベテランなのだそうだが、
慣れない病棟での、もう一人の看護師に手順を教えてもらいながらの手際には、
朝からやや不安を覚えていた。
力は安定しているとは言え、いろんなところがまだ不安定な身の上だ。

メインの担当看護師は他の患者の担当だったのだが、
いつものようにちょくちょく見に来てくれていた。 
前日に、一本目のカニューレ固定紐を作って使ったのだが、
よさそうだったので、その日は二本目を、同じ寸法で作ってきて渡した。

昼ごろ、高校の友人がわざわざお見舞いに来てくれた。
ものすごく久々に会う友人。ブログをいつも見て心配してくれていたようだ。
彼女の子どもも、病気入院を少ししていたことがあり、
入院の大変さを理解してくれていた。
帰り際、おいしいと評判のケーキ屋さんのお菓子を差し入れしてくれた。
そうだ、今日は夫の誕生日。これをプレゼントの代わりにしよっと。

昼過ぎにその二本目の固定紐に交換し、
昨日洗わなかった足を洗ってもらった。
一日洗わないだけで結構くさくなる。赤ちゃんならではだが。
今日の担当の看護師2人と、メイン担当看護師もついてくれて、ハーレム状態。
風呂に入れない力は、足洗い大好きなので、気持ち良さそうにしていた。
じゃあ、手も洗おうか、と、手を洗おうとしたら、
ちょっとゼロゼロ言い出した。
メイン看護師、「ちょっと痰取って。」と、担当看護師へ。
担当看護師がややゆっくり準備していると、
メイン看護師、「ちょっと急いで!早く!手袋せんで急いで!」
と声色が変わったので、
-え?
力をよく見ると、
白目をむいて、しゃっくりみたいな変な呼吸になっている。
-なに?これ?なに?この変なのは?
と思っているうちに、みるみる顔から身体まで紫に変色していった。
「早く痰取って!」
痰取りするも、全く痰は引けず、変な呼吸のまま真っ青に変わっていた。
メイン看護師、力の身体を横向けながら大声で叫んだ。
「早く誰か先生呼んで!!」
「ハリーコールを!!」

担当看護師がばたばたとナースステーションに走って行き、
入れ替わりに、数人の看護師が入ってきた。
近くにいた整形の医師がきた。
バッグでカニューレ経由でバギングしても全く変わらず。

息せき切らせて、1階から階段を走って駆けつけてきた主治医が入ってきた。
力を見てすぐ言った。
「どうした?!あ、これ、カニューレが外れとうやん!!早く!挿管!早く!酸素も!」
看護師が挿管セットをがちゃがちゃ探している。
『ハリーコールです。5階外科病棟に至急~・・・・。』
という全館放送が流れているのが聞こえた。
あっという間に、力の病室は、医師と看護師で一杯になった。
挿管する前に主治医がカニューレを入れ直した。
バギングすると、顔色が戻ってきた。

「時間何分やった?」
召集でやってきた、どこぞの科の少し年配の医師が看護師に聞いた。
「1分も経ってません。ハリーコールの前に既に○×先生(=主治医)が来てくれていました。」
「うん、なら、大丈夫やな。」
「解決しました。ありがとうございました。」
ささーっと潮が引くように、みな去っていった。

私は、何も言えず、何もできなかった。最初からずっと見ていたのに。
ただ、呆然として、だんだん身体がつめたーくなっていってた。
-何で、力、ここまで頑張ったのに、何でここでこんなことになると?うそやろ?
って。
痰が詰まったんなら、どうすりゃいいと?って。
何も激しい動きはしていなかったし、まさかカニューレが外れてたとは思いもよらなかった。
こんな、一秒を争う場面を、また見てしまった。

力は酸素供給されて、どうにか戻った。
ぐったりしていたが、身体の色は普通の肌色に。
息もちゃんとできている。

気づくと、外科医2人も、手術中を抜け出して駆けつけていた。
「よかった。まさか外科病棟でハリーコールって、びっくりしました。
力君が、と人づてに聞いて、とにかく上がってきました。」

ハリーコールは、緊急を要す患者の急変にのみ使われる全館放送で、
医師は絶対手が離せない状況でなければ、すぐに指定の場所へ駆けつけなければいけない。
それで、ありとあらゆる科の医師が集まってきたのだ。

何でこんな状況になったのか、メイン看護師等とともに、
主治医、外科医などと検証した。
-まさか、カニューレが外れているとは思わなかった。
てっきり痰が詰まっていると思って、痰取りしても何もとれなかったので、
すぐにハリーコールをした。
と看護師側から報告した。
確かに、直前に激しく首を動かしたり、変なことはしていない。
ただ、足を洗い、手を洗おうとしていただけだ。
呼吸が変わって、痰も取れなかったので、
とりあえず横向きにした時に外れたのかもしれない。
カニューレが外れたから急変したとは、看護師3人と私も含め、考えなかった。
でも、じゃあなんで急変したのか?
カニューレ外れが原因でないとすると他の原因が考えにくかった。

脳障害などや身体へのダメージが心配なので、
血液検査と、レントゲンを取ることになった。
その間、私は夫に電話した。
夫は忙しい最中だったので、手短に説明した。
呼吸が変わって、というくだりで、
「それ、カニューレが外れたと?」とすぐさま言った。
「今の時点では、カニューレが外れた可能性と、それ以外の可能性を検証してる。」
と伝えた。
「私はあの時、カニューレ外れたとは、全く思いつかんかった。」
いきさつを話すと、怒っていた。
「何しようとや、全く!」

至急で出した検査結果は、全く問題ないものだった。
また、酸素飽和度は危険な状態まで落ちておらず、
呼吸数も10台には落ちたが、ゼロになったというわけではないと、
モニタの記録から明らかになった。

力はまだ小さいので、カニューレの気管内に納まっている部分はかなり短い。
さらに、先日、カニューレ先端の気管内に肉芽ができているのがわかったので、
先端部に肉芽があたらないように、
カニューレとのどの間に保護として、敷いているガーゼを二枚重ねていた。
それで、入っている部分がもっと短くなって、カニューレが外れやすくなっている状態なのだ。
もし1枚にしても大丈夫そうだったら、そうしてもらおう、
耳鼻科の先生に診てもらおう、ということになった。

耳鼻科医が来た。
ハリーコール時は手術執刀中だったらしい。
「外来の看護師は、5階ではハリーコールって聞いて、力くんじゃない?と心配しよった。」
と。
ファイバーを見て、肉芽は小さくなっているので、一枚でも大丈夫だろう、
と、一枚にすることになった。
力の急変の様子を説明した。
すると、やはり、カニューレ外れ以外の原因は考えにくい、とのことだった。
外れてもすぐに急変するわけではなく、
気管切開孔が開いているので、そこから呼吸はできるらしい。
強く泣いたり、息をしようと力を入れると、その孔が締まってしまい、
呼吸困難な状態になるそうだ。

主治医が言った。
「予備のカニューレは?ちょっと不潔になったやろうけん、かえよう。」
看護師は、どこにあるか、すぐにはわからなかった。
探して、すぐそばの引き出し台の中にあった。
主治医「これ、紐がちょっとゆるい。」
メイン看護師「今日、ママに作ってきてもらったのを、
新しいまま、洗濯せずに使ってしまいました。それでゆるんだかもしれません。」
主治医「もうちょっと短めにして結ばんとね。少しでもゆるいと、外れてしまう。」

私の作った紐のせいか?寸法昨日と同じなのに?

予備カニューレを付け替えた。
新しい紐がなかったので、
耳鼻科外来の方からまわしてもらった。
念のため、きつ目につけた。

耳鼻科医は言った。
「でもね、今こんなことになって、良かったような気がしますよ。
だって、気管切開しているご家族は、誰でも一度は通る道です。
お昼の病院内のことでよかったです。」

まあそれはそうだ。でもそれは助かったから言えること。
誰もが通る道って、
つまり、力、ずっリスクと隣り合わせってことだ。

今日のことは、力が警鐘を鳴らしてくれたに違いない。
母ちゃん、気を抜くなよ!って。
気管切開してるから大丈夫、ではない。
外れたら、3分で脳障害、5分で終了だ。

その他の原因不明の呼吸不全ではなさそうなので、
まだよかったと思おう。
でも、これから、今日のことをいつも思い出さねば。
いつもことあるごとに、カニューレがちゃんと外れてないか注意しよう、
と性根に据えた。

だが、疑問に思った。
なぜカニューレ外れと、最初に思いつかなかったんだろう。
看護師も、それに、他の科とはいえ、医師でさえも。
それほど動転していたということか?
でも、かなり取り乱して駆けつけた主治医は、見てすぐ原因がわかった。

医師や看護師であっても、その症例を身近に見てなければ、
正しい判断がつかない。
また、緊急時の対応、予備物品の置き場の把握など、
誰もが同じ程度にはできていないことは、
とても怖いことだと思った。

特にこの外科病棟は、急変の可能性がある患者が普段はあまりいない。
どちらかというと、リハビリ場のような、他の病棟とも違った雰囲気がある。
それがいいところでもあるが、
こんな時を争う状況で、
スタッフ等の意識の差は致命的になりはしないか?

もちろん自分ももっともっとしっかりしなければ。
他人の子ではない。結局は自分達で守るしかない。

今回も、また主治医に命を助けてもらった。

全く、とんだ夫のバースデーだった。